『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 それでも人生は続く

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)アメリカ
原題/Manchester by the Sea
監督/ケネス・ロナーガン
出演/ケイシー・アフレック  カイル・チャンドラー  ミシェル・ウィリアムズ  ルーカス・ヘッジズ 他


マンチェスター・バイ・ザ・シー


ボストン郊外で便利屋として生計を立てているリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)はある日 心臓に持病を持つ兄ジョー(カイル・チャンドラー)危篤の連絡を受ける。
急ぎ故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻るがジョーは既に亡くなっていた。
葬式、埋葬、資産の管理に加え、遺言により16歳の甥チャンドラー(ルーカス・ヘッジズ )の後見人に指定されていたリー。
兄の死、未成年を養育する事への不安に加え、リーはある重い問題を抱えていたのだった……。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
ケイシーが最高オブ最高


心に深い傷を負った男が故郷に戻り自らの過去と向き合う姿を描いた物語。
主演のケイシー・アフレックがアカデミー賞の主演男優賞、合わせてケネス・ロナーガン監督が紡いだ物語もアカデミー脚本賞を受賞しています。
何度も観ちゃった。
なのに思いが重すぎて、自分のなんちゃってブログで映画を穢したくなくて、なかなか文章が書けなかった(PCが落ちて書きかけ記事全部落ちたし💢)


マンチェスター・バイ・ザ・シー
「おいでよ」
呼ばれて何回も観たぞ ケイシーこのヤロウ!


映画冒頭主人公リーが淡々と仕事をこなす様子が映し出されます。
アパートの便利屋として働くリーは雪かき、ゴミ捨て、電気工事、トイレのつまりやバスの水漏れ修理までこなします。仕事は的確だけれどおよそ愛想というものが無く、ぶっきらぼうで客からクレームを受けても嫌ならクビにしろという態度。
夜は独りバーで酒を飲み女性からの誘いは無視、目が合った男性客に喧嘩を売り、一人暮らしの暗いアパートに戻りソファーで眠る。
寡黙で笑顔も無くおよそ潤いのない寒々しいリーの様子。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
笑顔なく、日々機械のように淡々と過ごすリー


ところが所々差し込まれる過去のシークエンスでのリーは快活に笑い家族や友人と楽しげに過ごし、まるで別人のようです。
リーの身に起こった「ある出来事」が如何に彼を打ちのめし人格を変える程だったかという事が分かります。
わたしは初見に「その出来事」が再現されるシーンで変な声が出てしまった。
アルビノーニのアダージョが朗々と流れる中、記憶再生されるあれこれをリーと一緒に追体験する観客。容赦のない残酷な現実に嗚咽するのを我慢して気付けば呼吸が浅くなっていました。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
幸せだった過去と現在の落差が辛い


マンチェスター・バイ・ザ・シー
残酷な過去の出来事に変な声出た


離婚した元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)をうっかり「妻」と呼ぶリーの心は未だ過去に留まったままなのでしょう。
悲しみを湛えた表情、力無い声、寄る辺ない仕草は心にダイレクトに響いて、ちきしょーケイシーこのヤロウ。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
大したセリフも無いのにケイシーのこの辺の演技凄いよ


重い内容ですが、ルーカス・ヘッジズ演じる甥のパトリックは映画の癒しです。
パトリックは若く幼く現代っ子らしい感覚で父の死を受け止め、過去を引きずるリーとは異なる反応をします。
彼の行動にリーが引っ張られるのは微笑ましく笑いを誘います。
引っ越さないといけないかもしれない不安、家出していた母との再会等ヤングも色々辛いのじゃ。
期待の新人ルーカス君 グッジョブ!


マンチェスター・バイ・ザ・シー
パトリックもそれなりに大変なのだ


元妻ランディを演じるミシェル・ウィリアムズが安定の演技。
気性の激しいランディの口から溢れる毒のような言葉が過去のリーをより追い詰めたのだろう事が容易に想像できます。
しかしそこに愛がある事が伝わるランディとリーの再会シーンが辛い。
ランディの選択は痛みをを乗り切る手段の一つとして正解なのかな。
泣ける。上手い。参った。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
シーンは短いけれど魅せる演技はさすが


ところで個人的にお兄ちゃんのジョーを演じたカイル・チャンドラーの佇まいがね、非常に非常に良かった。
リーが最悪な時一番そばで見守り、抱きしめ、寄り添っていたジョー。
パトリックの後見人にリーを選んだのも故郷に引き戻す意図があったのでは。自分の死後、独り暮らすリーの事が気がかりでならなかったのでしょう。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
お兄ちゃんのカイル・チャンドラー良かったわ~~


ボストンに越したリーが住みだした、狭く日当たりの悪い部屋を見たジョーは
「こんなの部屋じゃない!家具を買いに行くぞ!」と。
届いた新品の家具を覆っていたビニールを取り外しソファーにどっかり座り
「な?これが部屋だよ」とにっこり笑うジョーのお兄ちゃん力に心が震えたっっ。
当時のリーにはお兄ちゃんの笑顔に応える術は無かったでしょうが……。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
お兄ちゃん、リーの事心配だったんだろうなー💧



「無理だ、辛すぎて、乗り越えられない 無理なんだ。」
血を吐くように切実な想いを吐露するリー。
癒えない傷、苦しみに映画は答えを用意しません。
個人的にはリーは完全に乗り越える事は出来ないのでは無いかと思いました。
あまりにもリーの心の傷は大きすぎる。
それでも人生は続く。
リーがふと漏らすセリフ「ソファーベッドを置く部屋が必要だ」にパトリックを受け入れる兆しを感じたし、小さなボールを投げ合う姿もまたこれからのコミュニケーションの暗喩でしょう。
海岸で寄り添い釣り糸を垂れるリーとパトリックの姿に静かにひたひたと湧き上がる感動に涙を抑えきれませんでした。


マンチェスター・バイ・ザ・シー


答えを提示しない物語、ありがちなお涙頂戴な流れを一切排除したリアルな演出は逆に心に響き正直参った。
そしてなりよりケイシー・アフレックだよね!
数年に一度「映画が役者を呼んだ」ような作品に出会える事があって、本作のケイシーは正にそれだった。
もともとこの役、マット・デイモンが監督・主演を希望していたもの。
それが火星のジャガイモやらどっかの国の長い壁やらあれこれ諸事情でスケジュールが合わなくなりケイシーに譲った経緯があったとか。
マット上手いけどね、今回はケイシーで正解だよ。


マンチェスター・バイ・ザ・シー
ケイシー色々あったけど、仕事頑張って欲しい


独特の滑舌の悪い喋りや(褒めてます)ちょっと頭の悪そうな(褒めてます)育ちの粗野そうな雰囲気(褒めてますって)そしてなによりインディーズ臭溢れるケイシーのキャラ(超褒め褒めですって)がリーにどハマリ。
映画の神様がケイシーを「呼んだ」としか思えない演技はオスカー他数々の賞を総なめした事で証明済みでしょう。
想像を軽く超える素晴らしい演技に感情を揺さぶられ、猛烈な庇護欲あーんど母性本能まで刺激されても~~ホントにケイシーこのヤロウ!!


マンチェスター・バイ・ザ・シー
ホームレスみたいなケイシー 何とかしろよ


マンチェスター・バイ・ザ・シー
ええとこですな~~


ボストン近郊のマンチェスター・バイ・ザ・シー(実在の街です)の風景も美しい。
間違いなく本年度トップクラスの作品です。
大切な宝石映画になりました。
まだまだ絶賛上映中なのでぜひぜひ映画館へゴーだよ!
ってことで、さらば!!


マンチェスター・バイ・ザ・シー
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No title

思いだしてまた泣いたわぁ。。
そうそう、チャンドラーのお兄ちゃんもよかったね。
家具を買うシークエンス私も好き。
故郷で過去に対峙しなければ、リーは一生あのままだっただろうと思うし
弟を想う兄の愛にも泣けたんだよなぁ。
ケイシーはまさにはまり役で言うことなし。
初見時、私はパトリックをちゃんと理解できなかったけど、再見してルーカス君のうまさもわかった。
で、季節の移り変わりとともにリーの心の変化を描き切った脚本がきめ細かくて、やっぱうまいやね。最高です。

Re: No title

pu-koさん

ここ2週間でこれ以外に4~5本観てて、それなりに感動したりほほーってな作品だけど、これの衝撃とゆーか、心に残る感動が大きすぎて、他が霞んでしまって参るよwww
それくらい好きになった。
観るたびに「今回はリーが幸せになるかも……」ってパラレルなストーリーを期待するのにやっぱりめちゃ可哀想なリーで凹むwww
丁寧に写真をくるむ仕草にリーの愛情がびんびんくるし、鍋を焦がしたときに見ていた夢の中での娘の「お父さん、わたしたち……」のセリフに心臓止まりそうになった。
リーの中ではいまだに全部リアルタイムで過去になってないんだよ。多分彼は完全にクリア出来ないのではないかな。でも不器用なキャッチボールは拒絶しないから、付かず離れずパトリックと付き合って行くんだろうしそうして欲しいと切に願う。
たまらん。思い出しただけで泣けてくる。
くっそーーケイシーこのヤロウwww

おひさしぶりです。

http://blog.livedoor.jp/vivajiji/

こうして、いい映画にめぐりあえるシアワセ!
映画が好きで良かったってすごく思うよね。
そうそう、お兄ちゃん、おいしい役柄だった。
主人公、じゃがいもでなくてほんとよかった。
私もケイシー応援してますが
彼って何かあったのかい?

きのう、「メッセージ」観たの。
壮大なフリしているだけで感想は“ふ〜〜ん”。
本作の細かな人間描写と沁みる映像に
私はエール贈りたい、激しく。

Re: おひさしぶりです。

jiji姐さま


お久しぶりです!

> 本作の細かな人間描写と沁みる映像に
> 私はエール贈りたい、激しく。

姐さまもこれ琴線にふれましたか?!
下手なドラマのように語り過ぎない演出が巧みで、無理やり答えを出さない脚本も良いうえに役者の演技も最高。
主人公たちの思いが深く深く響いて、参りました、降参です。
映画を観た!と感動満足できて幸せでした。
1年に1本でいいので、こういう作品に出会えたら映画ファンで良かった!!!としみじみ実感しますよね。(昨年は「ROOM」でした)

主演がケイシーで良かったですね~。ジャガイモはまた別の機会に(笑)
ケイシーはホアキンと撮った変な映画が酷評されたり、セクハラか何かで訴えられたとか何かで干されたり離婚したり私生活が低調だったのです。

> きのう、「メッセージ」観たの。
> 壮大なフリしているだけで感想は“ふ〜〜ん”。

わたしも『メッセージ』ふーん、へーだったんですよ!
途中眠くて寝ちゃって💧
あちこちで映画通の方々絶賛で、あちゃー、また映画受信感性狂ってる??ってちょと凹んでたんですけど、まあ映画は合う合わないがホントにありますねー。

こちらにも

こんにちは。
ケイシー・アフレックは本当に良かったです。
彼の抑えた演技が逆にこの作品の奥底の哀切を浮き彫りにしましたね。
もともと好きな役者さんでしたが、私の中で彼のポジションは不動のものとなりました。
人生には「乗り越えられない」ことが必ずあり、それをきちんと主人公が語ったのが心に響きました。

Re: こちらにも

ここなつさん

こちらにもありがとうございます。
今のところの年間一位に出会えました。
これを越えるのはなかなかハードル高いかもです。
そそ、わたしもケイシー大好きなんですが、彼のある意味華の無いキャラが見事に映画に効いていて、これを演じるために役者になったと運命さえ(勝手に)感じるほどの名演でしたね。
毎回www「辛すぎる。無理なんだ」に心臓鷲掴みされて涙どーーーん!です……
ケイシー万歳!
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Author:みーすけ
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天邪鬼なので映画の好みも多少偏りありです
毒も吐き、妄想も垂れ流しますが笑って許してくださいませ
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